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スマートホスピタル構想とは?具体的な9つの事例と課題を徹底解説

スマートホスピタル構想とは?具体的な9つの事例と課題を徹底解説

「スマートホスピタルの事例を知りたい」
「自分が働いている病院と比べたい」

社会全体がデジタルシフトするなか、病院のデジタル経営として注目されているのがスマートホスピタルです。

この記事では、そんなスマートホスピタル構想の9つの事例と課題についてわかりやすく紹介します。医療事務として10年以上病院に勤めてきたこの記事の筆者であるわたしが経験した事例や課題も盛り込んで解説していますので、ぜひ参考にしてください。

また、記事の執筆にあたっては、多くについて『改革・改善のための戦略デザイン 病院DX(出版社:秀和システム、著者:野末睦・中村恵二)』を読み、参考にしました。

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スマートホスピタルとは

笑顔のナース

スマートホスピタルとは、病院におけるDX(デジタル・トランスフォーメーション)のことを指します。DXとは、IT技術を活用してサービスやビジネスモデルを改変していくことであり、経済産業省は以下のように定めています。

企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」

参考:経済産業省「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)」

旧態依然とした病院経営に、いま求められているのがDXを通じたスマートホスピタルなのです。

スマートホスピタルに注目が集まる理由

病院外観

DXは世界的なトレンドであり、遅ればせながら日本でもその動きが見られるようになってきました。

病院・医療業界も同様であり、DXの先にあるスマートホスピタルが注目され始めています。ここでは、環境の変化へ対応できなければ淘汰される時代において、スマートホスピタルが注目される理由について解説します。

労働生産性の向上が求められている

病院・入院イメージ

デジタル後発国と言われて久しい日本ですが、医療業界はその代表のひとつでしょう。人手不足も叫ばれるなか、ひとりひとりの生産性を向上させるDXが急務に迫られています。

私が過去に務めていた病院の事例ですが、その病院Webサイトにはオフィシャルなメールアドレスが存在していませんでした。メールがないので外部からの連絡手段は電話のみであり、事務員は緊急性の高い救急要請も診察時間の確認といった単純な質問も、どちらもリアルタイムで処理するという、生産性の低いことをしていました。さらには同時に受付窓口なども担当していたので、業務の質も落としかねない状態だったと言えます。

上記のような例は民間企業では考えられないと思いますが、病院は、昔ながらの非効率でアナログな業務がそのまま残っていることも少なくありません。低い労働生産性を上げるために、デジタル活用によるDXが求められています。

2025年問題に向けた赤字経営からの脱却

少子高齢化が加速する日本において、2025年には団塊の世代と呼ばれるおよそ650万人が後期高齢者である75歳に達することになります。

医療費・介護費が他の年代より多くかかる後期高齢者が増えれば、国の社会保障費は急増し、国家財政を圧迫することが懸念されますよね。これが2025年問題です。

この問題の対策として、政府は、赤字経営が続く公立・公的病院のうち424の病院に再編・統合を促す計画を2019年に出しています。対象病院に求められるのは経営改善の鍵を握るのがDXです。

公立・公的病院にとっては、スマートホスピタル実現による赤字経営からの脱却が喫緊の課題です。非効率な経営を見直し、デジタル化によってムダを削ぎ落とした、大幅な経営改善が望まれます。

※参考:再検証要請対象医療機関(厚生労働省)

地域包括ケアシステムと情報共有システム

仕事をする女性

2025年をめどに、厚生労働省は地域全体として医療・介護サービスを提供する「地域包括ケアシステム」の構築を目指しています。病院単独でなく、近隣の病院、介護施設、ケアマネなどが連携して患者を支援していく仕組みです。

ここで重要になるのが、デジタル化された情報共有システムです。電子カルテで医療データを記録し、クラウド化しておけば、診療情報提供書などの書類や検査データなども紙にすることなく、外部機関とかんたんにデータ共有できるようになります。

地域包括ケア実現のためには情報共有システム構築が必須であり、その前提として病院は電子カルテ導入などスマートホスピタルとしてデジタルシフトしていく必要があるのです。

スマートホスピタルの事例9選

病院で働く

病院DXであるスマートホスピタルの目的は、大きく3つに分けられます。

スマートホスピタルの目的

  • 医療サービスの質向上
  • 医療従事者の業務効率の改善
  • 患者の利便性向上

医療サービスの質とは、正確な診断や投薬、効率的な情報管理などを指します。

業務効率の改善とは、これまでのアナログな仕組みをデジタル化して負担を減らし、本来の業務に集中するなどのことです。

患者の利便性向上とは、待ち時間の短縮、初めての来院でも迷わない案内などの接遇があげられるでしょう。

このようなスマートホスピタルの事例を9つ紹介していきます。

① オンライン診療

オンライン診療のイメージ

オンライン診療とは、ビデオ通話システムなどを通じて行う診察のことです。日本ではオンライン診療の導入が遅れていましたが、新型コロナウイルスの拡大を受けて徐々に解禁されていきました。

オンライン診療が利用できると、患者は、在宅のままスマホひとつで診察を受けられるため、感染防止対策や待ち時間の削減ができます。

オンライン診療はメドレー社「CLINICS(クリ二クス)のスマホアプリが有名です。今後、初診も含めて解禁されたオンライン診療はますます普及することが予想されるので、病院はいかにインフラ整備していくのかが問われます。

こちらの記事では、ピルのオンライン診療を経験したことがある人の感想について解説しています。

ピルのオンライン診療を利用してる?女性407人に聞くメリットやデメリットを調査!

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② AI問診システム

医者・医療・オンライン診療・オンラインミーティング

AI問診システムとは、AIが患者ごとに最適化された問診を行い、カルテ記載業務の効率化を実現するものです。患者は病院にてタブレットを用いた問診の入力ができるほか、来院前にスマホから行うこともできます。ユビー社の「ユビーAI問診が有名です。

電子カルテを導入していても紙の問診票では結局、医師や事務員による転記やスキャンという手間が発生しますが、AI問診システムなら電子カルテと連携しているため、従来のアナログ作業によるムダが省けます。

ユビーAI問診は、お薬手帳や紹介状もOCRでスキャンできる機能があるので、患者の利便性や満足度の向上にもつながるでしょう。

③ 医療情報ネットワーク

パソコン

医療情報ネットワークとは、電子カルテによりデジタル化した医療データを、外部機関と共有するための情報共有システムです。

医療情報ネットワークの具体的な事例として、島根県の「まめネットがあります。まめネットは、患者の医療データを、島根県内の中核病院を中心としつつ、他の病院や訪問看護・介護施設、薬局、歯科などと共有できる仕組みです。

まめネットのような医療情報ネットワークにおいて既往歴や検査結果などの医療データが連携されていれば、患者は新しい病院を受診するとき同じ説明をしたり、同じ検査を受けたりするような従来のストレスから解放されます。

④ RPAを活用したダブル・タスク・シフティング

パソコンとデータ

RPAとは「Robotic Process Automation(ロボティック・プロセス・オートメーション)」の略で、定型的な作業をソフトウェアロボットに代行させ、自動化することを指します。

また、厚生労働省でも医師の働き方改革を推進するものとして議論されているのが「タスク・シフティング」で、これは医師が本来の医療行為に集中できるよう、カルテの記録や診断書作成など事務作業の一部を医師事務補助などにシフトさせることです。

このような医師のタスクシフティングに加え、さらに医師事務補助などの事務員がRPAを活用してデスクワークをシフトすることを「ダブル・タスク・シフティング」と言います。このようなダブルタスクシフティングにより、医師も事務員も人間にしかできない、本来の業務に集中することができ、効率性アップと医療の質向上を図ることができます。

⑤ グループウェア

ビジネスチャット

病院内のコミュニケーションを円滑にし、業務効率化を促進するツールとして、グループウェアがあります。グループウェアの主な機能は以下のようなものです。

グループウェアの主な機能

  • チャット
  • 掲示板
  • スケジュール管理
  • ファイル共有
  • オンライン会議

ビジネスチャットなら日常的に利用しているLINEなどと似たインターフェースなので、ITに詳しくないスタッフでも馴染みやすく、導入しやすいグループウェアと言えるでしょう。

このようなグループウェアを導入することで、病院内のコミュニケーションを活発化し、情報共有・情報連絡の効率化を実現できます。

⑥ 遠隔モニタリングシステム

看護師

コロナ禍において、医療の提供と職員の感染防止を同時に突きつけられた病院のニーズに応えたのが、遠隔モニタリングシステムです。

具体的事例として、神戸市立医療センター中央病院が採用したT-ICU社の遠隔モニタリングシステム「クロスバイ」は、患者のベッドサイドに設置した高性能カメラにより離れた場所からでも複数患者の観察を可能にしました。

患者との非接触を保ちながら、患者の表情やバイタルサイン、職員の動きも観察できるため業務改善につながると同時に、同システムを通して患者とコミュニケーションを取ることもできるので患者の利便性も高まります。

⑦ スマート治療室

手術室

スマート治療室とは、手術室の医療機器・設備をネットワークでリアルタイムに接続し、さまざまな情報を一元管理することで治療の安全性と効果の向上を目指すものです。

東京女子医科大学など5大学と日立製作所など11企業の協力体制でスマート治療室「SCOT(Smart Cyber Operating Theater)」プロジェクトが進められ、東京女子医科大学にはSCOT最上位モデルが導入されました。

スマート治療室SCOTでは、MRIなど画像情報と患者の生体情報といった異なる情報が時間同期して保存され、手術過程の多面的な分析が可能となります。さらに、最上位SCOTではAIによる手術ナビゲーションの実装も計画されています。

⑧ 電子お薬手帳

女性 スマートフォン

電子お薬手帳は、病院で発行される処方箋を扱う薬局におけるIT化のひとつであり、こうしたコメディカルのDXも病院のスマート化を後押しします。

電子お薬手帳の事例としては、日本薬剤師会が運営する「eお薬手帳」があり、お薬の登録や管理、処方箋画像の送信などがスマホだけでできて、かんたんです。

初めての病院を受診するときも薬局で調剤を受けるときも、スマホさえあれば服薬情報を提供でき、お薬手帳忘れということがなくなるので、医師や薬剤師はお薬の飲み合わせやアレルギーのチェックをスムーズに行えます。

⑨ APM(アセット・パフォーマンス・マネジメント)

エコー

APMとは、「Asset Performance Management(アセット・パフォーマンス・マネジメント)」の略で、医療機器など院内資産(アセット)の運用を最適化し、業務効率の改善を実現するものです。

従来、院内の医療機器の稼働状況を把握するには人手が必要でしたが、APMを用いてIoT化しておけば稼働率の低い機器を割り出せるようになり、保守・管理費や減価償却費の削減につなげられます。

岡山県の倉敷中央病院がGEヘルスケア社をパートナーとしてAPMを導入しています。同病院では、収集したデータを分析したところ、超音波診断装置の総台数を114台から95台に最適化することに成功しました。このように、設備パフォーマンスの観点から病院経営の効率化と生産性の向上を図るのがAPMです。

スマートホスピタルの課題

病院の受付前を歩く看護師

スマートホスピタルを実現するためには、いくつもの解決すべき課題があります。

単に病院の基幹システムをデジタル化すれば良いというものではなく、病院スタッフの知識習得や患者側の意識改革もスマートホスピタルを推進するうえでは重要な要素です。

例えば、近年の電子カルテの普及率を見てみましょう。

年度電子カルテの普及率(一般病院)
平成20年14.2%
平成23年21.9%
平成26年34.2%
平成29年46.7%
令和2年57.2%

参考:電子カルテシステム等の普及状況の推移(厚生労働省)

2020年度(令和2年)における一般病院の電子カルテ普及率は57.2%と半数をすこし上回っている程度であり、約半数の病院はまだ電子カルテを導入していないことがわかります。電子カルテ普及率が90%を超えるような欧米のように、日本でもさらなる医療デジタル化が不可欠です。

この他にも2つの課題について詳しく解説していきます。

病院スタッフのITリテラシーが低い

病院内

1つ目の病院のデジタル化が遅れている理由として、スタッフのITリテラシーの低さが問題になることがあります。

これは私が医療事務員だったときの話です。勤務していた病院が移転にともない紙カルテから電子カルテに移行するタイミングがあったのですが、電子カルテシステム移行によって、逆に処理する紙の量が増えたのです。さらに紙の資料のスキャン作業、廃棄作業にも膨大な時間を奪われ、残業時間すら増えるというような本末転倒な結果になりました。

問題なのは、真にITリテラシーのある人間が病院にいないことです。このような事態の打開には、ITに明るくリーダーシップをとれる社内SEなどIT担当者を配置することでしょう。IT担当者がいないと、医療ベンダーの言われるがままにシステム導入をしがちで、本当にその病院にフィットしたシステムの構築はできません。

また、病院スタッフに向けた定期的な教育も必要でしょう。IT担当者が中心となり、病院スタッフへの啓蒙活動を行わなければITリテラシーの底上げはできません。いくら業務をデジタル化してもそれを扱う病院スタッフの知識がともなわないことにはDX、スマートホスピタルの実現はありえないでしょう。

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マイナンバーカード普及の遅れ

マイナンバーカードと健康保険証

2つ目にマイナンバーカードの普及遅れです。

マイナンバーカードは、個人情報漏洩の懸念からなかなか普及が進んでいないのが現状ですが、マイナンバーカードの保険証利用は病院業務のスマート化に役立ちます。

マイナンバーカードの保険証利用におけるメリットは、以下のようなものです。

マイナンバーカードのメリット

  • 顔認証による受付の自動化
  • 窓口で限度額以上の一時支払い不要
  • 正確なデータに基づいた診療・投薬
  • 特定健診情報の閲覧
  • 薬剤情報の閲覧
  • 医療費の確認

参考:マイナンバーカードの健康保険証利用について~医療機関・薬局で利用可能~(厚生労働省)

このようなメリットは患者が享受できる便益であると同時に、そのまま病院の業務効率アップや医療の質向上にも寄与します。日本ではマイナンバーカードなど個人番号付与に根強い反対がありますが、これからの病院DXの推進に欠かすことはできません。

まとめ

スマートホスピタルの事例について紹介してきました。

もはや、ただ待っていれば病院に患者さんが来てくれるような時代ではありません。積極的に医療の質、患者の利便性を追求する必要があります。そのために業務効率アップが必要であり、これを実現できるのがスマートホスピタルです。

非効率的なアナログ業務や独特の古い風習に問題意識を抱き、DXを通じた病院経営・運営にキャッチアップしていくべきと考えている病院スタッフのかたは、ぜひこの記事を参考にしてください。

Writer執筆者
山本 大輔のプロフィール画像
山本 大輔

フリーライター


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フリーランスのWebライター・Webライター講師。前職は医療事務、健診事務、診療情報管理士として10年以上病院にて勤務。現在は、現在は、ライター関連以外にも複数サイト・個人ブログ運営、Webコンサルを行っている。小さなバッグとPCひとつ抱え、海外など好きな場所で「Webな毎日」を送れるように活動中。

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